山陰のクラフトビールが熱い! 小規模ビール醸造の聖地【島根県西部】(前編)
島根県を旅する方におすすめしたい島根県江津市の「 石見麦酒 」・ 島根県浜田市の 「ファーマーズブルワリー穂波 」 について紹介している記事です。
クラフトビールブームを支える画期的な醸造法
1994年に酒税法が改正され、全国に地ビールが誕生してもうすぐ30年。
90年代後半に発生した地ビールブームはあっという間に沈静化し、2000年代は「地ビール冬の時代」と言われる厳しい時代となりました。
その時期から「地ビール」という呼称を「クラフトビール」に変える動きが進み、2010年代初頭からじわじわと人気が戻り、2020年代の現在はクラフトビールブームが起きています。
ビールの醸造所の数も増加し2023年3月現在、全国700カ所に迫る勢い。この5年間で倍増しています。
島根県も例外ではなく、一時は島根県東部の松江市にある『 松江ビアへるん』しかなかったのですが、今では8社の醸造所が稼働中です。
この全国規模の増加に少なくない影響を与えたのが、島根県にある一つの醸造所だったことをご存知でしょうか?
山陰発、全国に広がった画期的な小規模醸造法に迫ります。
醸造家仲間との何気ない会話から出てきたアイディア
萩・石見空港から車で1時間と少し東へ進むと、島根県西部・石見地域にある江津市に到着します。ここに2015年に設立されたのが『石見麦酒』です。
通常、ビールの醸造所にはステンレスのタンクが並びますが、こちらでは見当たりません。代わりに置いてあるのはチェストフリーザー。いわゆる業務用の冷凍庫です。しかも中にビニール袋が入っており、ビールが収まっています。

工場長の山口巌雄さんはこの「石見式醸造法」とも呼ばれる醸造法のメリットについてこう話します。
「ビールの造り手の仕事の多くはタンクの洗浄に費やされると言われます。発酵タンクも念入りに洗浄する必要があるのです。ところが、この醸造法だと発酵と熟成を終えたビールを出してビニール袋を捨てるだけ。洗浄の手間を省くことができます」。
また、通常のステンレスタンクだと醸造室全体を温度調節しなければならない一方、タンクごとに個別の温度管理が可能に。そして、何よりもステンレスタンクより圧倒的に安価なのがポイントです。
山口工場長いわく、
「ステンレスタンクが1本約100万円するところ、こちらだとチェストフリーザーの5万円程度で済みます。お酒造りは楽しいので、私は皆さんにも気軽に始めてもらいたいと願っています。始めるにあたって、初期投資の額は安いに越したことはありませんよね」。
話を聞くと、この画期的な醸造法が生まれた背景には山口工場長の前職、味噌メーカー勤務時代のキャリアが生きていることがわかりました。
「醸造家仲間とステンレスタンクの高額さについて話していたとき、チェストフリーザーで代用するアイディアが出てきました。何に入れるかの話題で友人が“ビニール袋はどう?”とポロっとこぼしたんですが、私はすぐにそれだ!と思いました。味噌はビニール袋に入れるので問題ないと思えたんですよね」。
仲間との会話で生まれた醸造法は今、全国各地に拡大。石見麦酒のある江津市には各地から研修生もやって来ています。
もちろん、島根県内でも広がっており、お隣の浜田市にある『ファーマーズブルワリー穂波』はいち早く石見式醸造法を取り入れた醸造所となりました。
多彩なクラフトビールと合わせたい絶品の鯖ドッグ
『ファーマーズブルワリー穂波』を運営するのは三島ファームという農業の会社です。
かつては農場の一角の小屋でビール造りをしていましたが、コロナ禍のなかで『はまだお魚市場 』に移転することに。
はまだお魚市場は浜田漁港で水揚げされた鮮魚が所狭しと並び、フードコートでは海鮮丼やお刺身や魚のフライが食べられ、さらに山陰のお土産も購入できるスポット。現在、ビール造りはこの市場の中にある醸造所で行われています。
醸造スペースにお邪魔すると、石見式醸造法の代名詞とも言えるチェストフリーザーの発酵タンクが並んでいました。
なお、この発酵タンク1つの容量は150リットル。発酵タンクのサイズは“小規模”とされるクラフトビールメーカーでも4000リットルのサイズがあり、比較すると約26分の1の大きさなので、いかにこのタンクが小さいかがわかります
ファーマーズブルワリー穂波のユニークなところが、ビールだけではなくてどぶろくも製造しているところです。
三島ファームがリリースしている「海辺のどぶろく」には甘口と辛口の2種類が用意されています。実は石見式醸造法はビールだけではなく、様々なお酒に対応可。どぶろくや果実酒、リキュールも造ることができるのです。
生まれたてのお酒は併設の『BEER STAND HONAMI』で味わうことができます。
こちらで絶対に味わっていただきたいのが、名物の「鯖ドッグ」。
山陰沖の脂ののった鯖と三島ファーム自慢の有機野菜(ルッコラ、玉ねぎ、トマト)と一緒に豪快にいただきます。鯖の香ばしさとぎゅっとした旨味が感じられるので、味付けはあえて塩コショウとレモンだけ。素材の味そのものが堪能できます。
8種類あるというビールとの相性ももちろんばっちり。今、一番人気なのが島根県産の八朔(はっさく)を使った「穂波八朔」。大麦に加えて小麦を使った、飲みやすいセッションホワイトIPAというスタイルでついつい進んでしまいそう。
この鯖ドッグ、「浜田の新しいソウルフード」になることを目指しているとか。島根県西部に来たら必食の逸品です!
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*取材・文・撮影:矢野竜広
MAP
- 石見麦酒
- 日本、〒699-4431 島根県江津市桜江町長谷2696 GoogleMapで見る
*この記事は2023年2月時点の情報を基に作成しています。
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※本記事は、2023/05/25に公開されたものです。記事内容は現在と異なる場合がありますので、事前にご確認ください。